離陸

郭沫若『中国古代の思想家たち』(岩波書店、野原四郎ほか訳、全2冊、上巻は1953年・下巻は1957年、原題は『十批判書』、初版は1945年、翻訳底本は1950年の改訂版)です。
いわゆる諸子百家と呼ばれる、先秦時代の思想家たちの事跡を、古書から組み合わせて、20世紀半ばの時代の立場から考えたものです。当時の中国は、抗日戦争のさなかで、著者も重慶にいて、この本の原稿を書いていたようです。
中国自身が、新しい世の中に脱皮しようとした時期の著作ですので、現在の学問の到達点から見ると、物足りないところもあるかもしれません(そこはちょっと判断がつかないのですが)。ただ、旧中国をつくってきた、儒学を基本として、法家と老荘の思想を補強にした支配体制への著者の批判はよみとれます。当然、単純な儒学批判ではありません。
そう思うと、文革末期に、〈批林批孔〉とやったときの、儒学批判の底の浅さも、この本の態度とは対照的なもののように見えてきます。著者は文革の時期には、あまり表に出なかったような記憶がありますが、さもありなん、というところでしょうか。