一日玄米四合ト

宮沢賢治の話ではなくて、『すばる』4月号の原田ひ香さんの「ナチュラルママ!」です。夫が北海道のある市の市役所にヘッドハンティングされ、一家で移住することになった主婦の視点から、北海道のまちでの日々を描いた作品です。妻は、小さなこどもを抱えて、友だちづくりということもあって、自然食の教室に通うようになるのです。その教室を主宰している女性が、怪しげな人で、自然食も、「陰」だの「陽」だのという、本草もどきの理論をふりまわして、玄米だの非動物性食品だのを食べさせるのです。味噌汁のだしも、昆布としいたけでとる、ほうれん草ではなく小松菜を使え、しょうゆも中国産大豆は使わない、などと材料にこだわったり、電子レンジを使った調理はするな、野菜は火を通して食べろと、言ってみたり。
まあ、半分冗談で聞き流せばいいことではあるでしょうが、主婦たちはそれを忠実に守ろうとしているので、なかなか大変です。子どもたちを集めて、みんなでお食事会をしようとしても、そうした「縛り」のきつさにうまくいきません。
あげくのはてに、主宰者の女性が、もっといい方法を知ったとかいって、「四十八度以上に加熱されたものを食べることはできません」と、今までと正反対のことを言い出すのです。
そうしたものに振り回される主婦たちを描いて、今の世の中の閉塞状況を斜に構えてみているのでしょう。

玄米は、ご存知のとおり、ビタミンも豊富で、胚の部分には脂質もあり、胚乳(白米部分ですね)のたんぱく質とあわせれば、たしかに相当の栄養はとれます。(逆に、アレルギーになるのも、その脂質の部分が問題のですが)また、ほうれん草はアクが強くて、小松菜ほどのさっぱり感はありません。昆布だけでだしをとっても、味噌汁はおいしくいただけます。(本当は根昆布のほうがいいのですが)そういう点では、この主宰者の方の言い分にも、全く理がないわけではないのですが、加熱を拒否するのはいただけませんね。人類が文化をつくったのは、食物を加熱して食べるところからはじまったのですし、土器の製作も、金属の精錬も、加熱なしでは不可能です。「自然食」をブームにして、栄養失調になってはたまりません。