たまには思い出

駒田信二さんの『遠景と近景』(勁草書房、1983年)です。
駒田さんの名前は、『水滸伝』百二十回本の翻訳(平凡社)でなじみだったので、大学にはいったとき、教養課程の授業で、(人文・社会・自然の各分野で最低1科目はとらなければならなかったのです)「文学」の科目のなかに駒田さんの授業があったので、履修してみました。(すると、〈先生〉と呼ばなければならないでしょうかね)
内容は全く覚えていないのですが、ただ、阿川弘之さんの『論語知らずの論語読み』(講談社、1977年)に出てくる「二信亭田句馬先生」というのは、自分のことだと紹介していたのだけは覚えています。
さて、本題に戻って、この本は、そのころに書かれた文章を収録しています。やはりその中でおもしろいのは、岩波文庫の百回本『水滸伝』の翻訳のずさんさについて、当時の訳者だった吉川幸次郎さんに、駒田さんの高校時代の教え子だった高橋和巳を介して手紙を渡してもらったというのです。実際、吉川さんは、水滸伝の翻訳にかかりながら、実際には途中で放棄して、清水茂さんにバトンを渡したような形に当時なっていましたから、そうしたこともあったのでしょう。その結果かどうか、高橋和巳はその後、駒田さんとの交渉を絶ったとかいいます。
人との交渉の思い出というのは、苦いものもあるものです。