証言

『対談 日本の文学』(中央公論社、1971年)です。
中央公論社が、1965年あたりから、「日本の文学」という、近代文学全集を全80冊で刊行したのですが、その月報で、関係者の対談(場合によっては鼎談)を企画したのです。それを1冊に集成したのが、この本なのです。
三島由紀夫渋沢龍彦稲垣足穂について語ったり、森茉莉小堀杏奴が父親の森鴎外について述べたり、と、みどころ満点なのですが、谷崎潤一郎の巻で、松子夫人とサイデンステッカーとの対談があります。松子夫人は、終戦直前に、岡山県津山市に潤一郎とともども疎開しているのですが、そのときのことをサ氏に語ります。爆弾や焼夷弾を落とした側のサ氏が、神妙に松子夫人の当時の回想を聞いている姿は、よくよく考えると、妙なものです。
ほかにも、ガン研に入院中の高見順中村真一郎が訪ねていったりとか、本多秋五湯浅芳子に、荒木と離婚前後の百合子の話を聞いたりとか、貴重なものばかりで、こうしたものが今は企画しにくいのかと思うと、40年という時間の経過も考えてしまいます。