悪いことばかりじゃなかった

ヴェルメシュ『帰ってきたヒトラー』(全2冊、森内薫訳、河出文庫、原本は2012年、親本は2014年)です。
ヒトラーが2011年8月のベルリンによみがえり、みずからの弁舌を生かして〈お笑い芸人〉として生きていきながら、徐々に人気をあげてゆくという話です。記事のタイトルにしたのは、作品の最後で、ブレーンの青年がヒトラーのために考えた宣伝文句なのですが、21世紀にこうした形で過去を振り返る勢力が出てきてもおかしくはない、という作者の判断があるのでしょう。
日本でも、戦前の体制に対して、同じようなことをいうのはある意味常套手段になっているわけで、そういう点では、東西の敗戦国の姿には似ているところもあるのでしょう。
作品として気になるのは、そのブレーンの青年は、ヒトラーの秘書役の女性と結婚するのですが、その女性の祖母はユダヤ人です。ヒトラーは秘書の女性からそのことを聞いて動揺するのですが、そこのところの作品中の処理は、はっきりしないところがあります。そこは作者のやり損ねた部分ではないでしょうか。