構想

宮崎市定水滸伝』(中公新書、1972年)です。水滸伝にみられるいろいろな人物やそれをめぐるできごとを、史家の観点から記したもので、作中のエピソードがもとづいているだろう史実を掘り起こしているところや、宋江という人物が同時代に二人いて、一人は方臘征伐に従い、もう一人は梁山泊で叛旗をひるがえしていた、という考察などは、興味深いものがあります。
けれども、著者が70回本を評価しているところはいただけません。ばらばらな形で広がっていた個々の英雄のおはなしを一つの長編にまとめるには、それなりにきちんとした構想をもたずにはじめるわけにはいきません。それはどうしても、梁山泊集団の崩壊までを描くことしか考えられません。108人が集結しておしまいでは、前に書いた『三侠五義』のように、ラスボスとの対決を前にして打ち切られたマンガのような印象を与えるものになってしまいます。
その呼吸が読めないなら、やはり史家には文学はわからない、ということになってしまいます。