開いていること

黒川創さんの『鷗外と漱石のあいだで』(河出書房新社、2015年)です。
20世紀初頭の文学状況を、日本だけでなく東アジアにおいて文学がどう受け取られたかを視野に入れて論じたものです。その中で鷗外と漱石の果たした役割を考えるというところに、中心はあるようです。
台湾征討戦争に鷗外は関与していたわけですが、そこから叙述ははじまります。
台湾は日本に領有されるときに、掃討戦争を戦っています。考えてみれば、このときに朝鮮半島では、農民戦争の掃討戦もやっていたわけで、日本軍は二正面作戦を強いられていたということになります。下関条約で決着がついたと単純にはいえないわけで、そこも含めて、東アジア情勢は考えなければならないということでしょうか。おもえば、『坂の上の雲』には、こうした話は出てきません。当時はそこまでの追求もできなかったのかもしれませんが、50年近くの年月はむだに流れているのではないということでしょうか。