2015-01-01から1年間の記事一覧

生き延びて

『母のくれたお守り袋』(滝平二郎、岩崎書店、1991年)です。とくに一貫したテーマのある著作ではなく、いろいろなところに発表した文章を集めたものです。 滝平さんは1921年の早生まれ(本当は4月半ばの生まれだったのに、早く学校にいったほうがいいとい…

地元の名士

千曲山人(1928−2011)の『一茶を探りて』(文藝出版、2005年)です。 長年、地元の俳諧師としての一茶を研究してきた千曲さんの、長野県のあちこちに残る一茶のあとを探訪する記録でもあります。各地に残る遺品などは、当時から一茶が地域では篤く崇敬され…

どこを向く

『女性のひろば』4月号に、和田静香さんという方のエッセイが載っています。 先場所の優勝後会見のときに、白鵬がいったことばを扱いながら、横綱を擁護しています。白鵬の発言の本旨は、底流にある〈日本人至上主義〉への批判であり、それをわれわれは克服…

まるくなる

『麹町 二婆 二娘 孫一人』(中沢けい、新潮社、2014年)です。 新聞連載作品なのですが、2010年から11年の東京を舞台に、1923年・1935年・1959年・1971年・1995年うまれの5人のいのしし年の女性が住む家を描いています。配偶者とは死別や離別をしているので…

舌禍

野上豊一郎・野上弥生子『山荘往来』(岩波書店、1995年)です。 戦時中から戦後はじめにかけて、野上弥生子が北軽井沢の山荘を拠点に生活していたころの、夫婦の手紙をまとめたものです。戦時下の物資逼迫のときに、どのように対応していたのか、戦後の激動…

すみわけ

ナディン・ゴーディマ『ジャンプ』(柳沢由実子訳、岩波文庫、2014年、親本は1994年、原本は1991年)です。 親本は、ゴーディマ作品の翻訳としては早い方らしく、当時の解説が文庫本に採録されているのですが、ほとんど訳がなかったむねが書かれています。 …

時差

大林宣彦監督の「廃市」(1984年)をケーブルテレビで観ました。原作は1959年に書かれた福永武彦の同名小説で、ほぼ原作通りの展開になっています。原作では、語り手が10年前のできごとを回想するという形ですから、直接作品発表とあてはめると、1950年ごろ…

線引き

有吉佐和子『日本の島々、昔と今。』(岩波文庫、2009年、親本は1981年)です。著者が1979年から80年にかけて、日本の端っこに近いさまざまな島を訪問して、その地域の実情をたずねたルポルタージュです。岩波文庫にしては、めずらしく解説などの文章がまっ…

広がり

寺田透『無名の内面』(河出書房新社、1976年)です。 著者は、花田清輝が『新日本文学』の編集長だったころ、編集委員をつとめていたようです。その期間だけ、臨時に新日本文学会の会員にもなっていたというらしいです。その時期のことを書いたエッセイがこ…

定着

川西玲子さんの『戦前外地の高校野球』(彩流社、2014年)です。 著者の父親が、天津商業で甲子園に出た経験をお持ちだったとかで、それが当時の植民地における中等野球に関心をもったはじめだったようです。今年日本でも公開されている「KANO」という、台湾…

原動力

『人類と機械の歴史 増補版』(リリー著、伊藤新一、小林秋男、鎮目恭夫訳、岩波書店、1968年、原著は1965年)です。 著者(1914-1987)はケンブリッジに学んだ、イギリスの科学史家のひとだそうです。原著の初版は戦後まもなく出版され、日本語訳も岩波新書…

伝統回帰

原田信男さんの『江戸の料理史』(中公新書、1989年)です。 江戸時代の料理に関する本を取り上げながら、そこに見える料理状況をとらえるものです。もちろん、そうした料理を楽しめる階層は、江戸のような都会に住んでいる一握りのひとたちだけで、地方のひ…

媒体

『中国古典文学大系49 海上花列伝』(太田辰夫訳、平凡社、1969年)です。 原書は1892年から書かれた作品で、最初は作者、韓邦慶の個人雑誌、『海上奇書』に連載されました。当時の上海の芸者の世界を舞台にして、そこに出入りする男たちや、そこに寄生して…

縛り

今年のセンター試験、小説は小池昌代さんの「石を愛でる人」でした。 どうみても最近の作品で、このところの牧野信一や岡本かの子のような著作権の切れた人ではない方を選んだのも、作品世界を現在に近づけようという意図があったのだろうとは思います。 た…

地の底から

小縄龍一さんが亡くなられました。 夕張の炭鉱で働いていて、閉山になったので札幌にでてこられたのでしょうか。炭鉱の生活に材をとった小説をいくつか書かれていました。 先年には宍戸律さんも亡くなられていますので、北海道の炭鉱を舞台にした作品の書き…

西は西

岩波文庫『川端康成随筆集』(2013年)です。 ノーベル賞講演の「美しい日本の私」など、著者のエッセイや、横光利一への弔辞のような知友を悼む文章などが収められています。 戦後の川端が、日本回帰ともいうべきこころを一貫して持ち続けていたことがそれ…

推敲

週刊文春の広告を見ていたら、綿矢りささんの結婚をめぐる手記が載っているようです。タイトルが、『私の背中を押した彼の一言』だそうです。 「推す」と「敲く」とのどちらがいいかを悩んだ唐の詩人の故事から、推敲ということばが生まれたそうですが、綿矢…

一寸の虫

岩波文庫『江戸端唄集』(倉田喜弘編、2014年)です。 三味線を弾きながらの小唄というべきものを集めたものですが、作成は明治にもかかっていて、〈散切り頭をたたいてみれば〉の唄があったり、鹿鳴館を扱ったようなものもあったりと、こういうものにも、世…