定着

川西玲子さんの『戦前外地の高校野球』(彩流社、2014年)です。
著者の父親が、天津商業で甲子園に出た経験をお持ちだったとかで、それが当時の植民地における中等野球に関心をもったはじめだったようです。今年日本でも公開されている「KANO」という、台湾の嘉義農林の野球部に材をとった台湾映画も、著者の探索を後押ししたようです。
30年ほど前に、金賛汀さんの『甲子園の異邦人』(講談社1984年)で、戦前の朝鮮代表として全国大会に出場した徽文高等普通学校の話は読んだことがありましたが、台湾や関東州もふくめた、外地代表を総覧したものは、珍しいことではあるでしょう。
もちろん、野球というスポーツにうちこめる環境にある人たちは、当時の少数派ではあったのですし、植民地においては、支配者の遊戯という側面もあったでしょう。けれども、台湾でも、朝鮮でも、わずかではあっても被支配民族も一緒になって同じルールのもとで競い合う場ではあったということも、あったわけです(もうひとつの外地、満州代表のほうは、そうした側面は薄いようです)。考えようによっては、現在韓国とチャイニーズタイペイプロ野球リーグが盛んであったりするのも、こうした流れがどこかで影響しているのかもしれません。

ただ、校閲の問題なのか、誤植というか、誤変換が、特に野球関係で目立つのは残念です。あと、個人の回想記を主に材料としているので、記憶違い(スタルヒンが北海中で甲子園に出たと回想しているひとがいました)が放置されているのも、少し考えさせてしまいます。