2015-01-01から1年間の記事一覧

単純じゃない

最近のいわゆる就活の学生に関して、『親はバブル世代だから子どもの大変さがわからない』的な言い方があるようです。けれども、〈バブル世代〉の代表格の半沢直樹は、1989年に銀行にはいっているので、いま49歳です。49歳が就活中の22歳の子の父親というの…

はぐらかし

小林信彦さんの『世界でいちばん熱い島』(新潮社、1991年)です。 このころの小林さんの作品は、『世間知らず』や『イエスタデイ・ワンス・モア』や、『イーストサイド・ワルツ』など、けっこうリアルタイムで読んでいるのですが、なぜかこの作品だけ、25年…

蓄積と成果

佐藤和彦(1937−2006)『中世民衆史の方法』(校倉書房、1985年)です。 中世史の研究史や動向論、書評などで構成された論集ですが、研究史のまとめが読みごたえがあります。土一揆の研究は戦前からの蓄積のうえに戦後歴史学の成果として広がっていったこと…

一面化しない

木村茂光さんの『ハタケと日本人』(中公新書、1996年)です。 中世までの文献史料にあらわれた、畠作に関するものを分析し、日本の農業が決して水田でのイネ耕作にかぎられるものではなかったことを明らかにしようとしています。 最近こそ、アワやヒエ、キ…

まわりまわって

政権党のある国会議員が、戦争法案反対をいう若者たちに対して、そういうことなら、仮想敵国の大使館やそれに準ずる施設の前でいうべきだと、ツイッターでつぶやいたそうです。 たしか、ある種の教科書では、満州事変や日中戦争の一因として、当時の中国では…

暑さ

和歌山だかの拘置所で、熱中症で亡くなった方が出たとか聞きました。そのかたが、どういう容疑でそこにいたのかは存じ上げませんが、だからといって、死んでいいというわけにはいかないのでしょう。 宮本百合子が巣鴨で熱中症のために意識不明に陥ったのも、…

延長

TPP交渉で、著作権の保護期間の死後70年への延長が決まりそうだという報道があったようです。 20歳代で作品を書いた人が80まで生きていて、死後70年保護となると、その作品は発表後130年間も、パブリックドメインにならないでブロックされるということです。…

未解明

渡邊澄子さんの『気骨の作家 松田解子百年の軌跡』(秋田魁新報社、2014年)です。 秋田魁新報に連載したものを1冊にまとめたもので、文庫判ですが561ページにのぼる大著となりました。 秋田県の鉱山に生まれ、そこからプロレタリア作家として生きた松田さん…

とびこし

秋山良照『中国土地改革体験記』(中公新書、1977年)です。 著者は、戦時中中国軍の捕虜となり、延安で捕虜教育に従事し、戦後引き揚げてきたあと、〈五〇年問題〉のなかでふたたび中国に渡り、現地で農村工作に携わりました。そのときの経験を記録したもの…

2冠達成

今度は、岩波文庫の『日本近代短篇小説選』(全6冊)の収録作品です。 これは、明治20年代から1970年までの作品をおさめています。一人一作であることは、新潮文庫と変わりなし。全86作のうち、トップは10作の『新潮』、次いで『国民之友』『中央公論』『改…

数えてみると

新潮文庫が、〈100年の名作〉ということで、全10冊のアンソロジーをだしました。全部で145編、各作家1作ずつの選出です。 鴎外や露伴のような明治というべき作家から、宮部みゆきや恩田陸あたりまで、どうしても、最近の作品のほうが、エンタメ系になるのは…

輪の中

十川信介さんの『「ドラマ」・「他界」』(筑摩書房、1987年)です。 明治20年代の近代文学の成立期をめぐる論文を集めたものです。坪内逍遥の「小説神髄」が与えた影響のなかで、いろいろな作家が、新しい文学を試み、批評家もそれに応じてさまざまな概念を…

大義名分

日本思想大系『頼山陽』(岩波書店、1977年)です。 山陽が死の直前まで推敲を重ねた「日本政記」を全文書き下し文にして収録してあります。これは、「日本外史」が、武家のたたかいを物語風に描いたのに対して、神武天皇から豊臣秀吉の死までを編年体にまと…

描写の力

井伏鱒二『珍品堂主人』(中公文庫、1977年、親本は1959年)です。 学校の先生だった男が、骨董にのめりこみ、骨董屋になる。その中で知りあった男の援助で料亭を開業し、そこそこ繁盛するが、奸計にはめられ、経営から追われる、というのが主筋の話ですが、…

のどもと過ぎれば

中島三千男さんの『天皇の代替りと国民』(青木書店、1990年)です。 もともとは、大正から昭和への代替りの時の、死去と即位との事例の研究を中心にして、1988年に出版企画がたてられたようなのですが、進行中に昭和天皇の病状悪化からはじまったできごとの…

宝の山

固定資産税は私の住んでいる政令市では、市役所から課税の案内がきます。ですので、市町村税だと認識していました。けれども、この前、ちょっと事情があって、東京のある区役所にいって、固定資産税関係の問い合わせはどこの窓口かときいたら、それは都税事…

反知性

『文学界』7月号は、「反知性主義」に陥らないための必読書50冊、という特集を組んでいます。その中で最初に取り上げられているのが、〈日本国憲法〉で、書家の石川九楊さんが書いています。石川さんは、憲法の前文を取り上げ、「国会の開会時と閣議の前には…

権利と責任

谷崎潤一郎『細雪』(新潮文庫全3冊、1968年改版、親本は1946年から48年にかけて刊行)です。 大阪の旧家にうまれた4姉妹の、1930年代後半の時期を描いた作品です。上のふたりはすでに結婚していて、下の二人がどういう縁をむすんでいくのかが、作品の中心に…

耐える

最上裕さんの『陸橋の向こう』(民主文学館)です。 最上さんは、電機の職場にいながら作品を書いてきたかたで、この作品集にも、そうした職場の現状が反映されています。 中心になるのは、〈陸橋〉ではじまる、表題作も含めた3つの作品で、〈東邦電機〉とい…

終わりははじまり

風見梢太郎さんの『再びの朝』(新日本出版社)です。 主人公はある通信会社の研究所に勤め、定年を迎えて再雇用ではたらいています。彼は京都の学生時代に日本共産党に入党し、職場のなかでも思想を理由にした差別待遇を受け続けてきました。けれども、かれ…

知るべきこと

岩波新書『在日朝鮮人』(水野直樹、文京洙)です。 在日社会の形成と現状を、歴史的にみて叙述したもので、この間の歴史認識問題についても、いろいろと知っておくべき点があるようです。 なにせ、敗戦を決定づけた文書も読まずに総理大臣がつとまる国です…

つくりごと

『近松浄瑠璃集 下』(日本古典文学大系、1959年)です。 近松の時代ものを収録しているのですが、江戸時代には、暗黙の規制として、同時代の政道をうんぬんしてはいけないというものがありました。だから、江戸は鎌倉だし、頼朝に畠山重忠や梶原景時が登場…

現地にて

原健一さんの『草の根の通信使 実録篇』(私家版)です。 原さんは、日本語教師として韓国に滞在した経験をもとにして、小説「草の根の通信使」「胸壁を越えて」を『民主文学』に連載しました。そのもとになった韓国滞在に関する記録や創作のための覚え書き…

親として

映画「ソロモンの偽証」です。原作は読んでないので、ご了解を。 1990年代初頭の冬、中学校の屋上から一人の男子生徒が落下した死体となって発見されます。その真相をめぐって、その生徒の同級生で、第一発見者でもあった女子生徒が、周囲の協力を得て翌年夏…

共存

小林徹・山本紀一『景徳鎮紀行』(NHKブックスカラー版、1981年)です。 なんでも、文革後はじめて取材を許されたNHKのスタッフが、景徳鎮の磁器生産の現場にはいった記録だということです。当然、取材ができる場所とそうでないところとがあり、古い伝統を守…

バイリンガル

ナボコフ『ロシアに届かなかった手紙』(加藤光也訳、集英社、1981年、翻訳原本は1976年)です。 もともとは、ベルリン在住時代にロシア語で発表した作品を、作者本人と息子さんとで英語に直したものだそうです。翻訳者は英語版から訳しています。 ナボコフ…

狭さ

地方選挙、前半戦が終わりました。住んでいるところが政令市なので、県会と市会の選挙がありました。放送では当選当確くらいしか出ないので、NHKのデータ放送をよく引っ張ったのですが、エリア内の選挙だけで、全国の結果は出てきません。すべての議会選挙を…

隠しても

岩本千綱(1858‐1920)『三国探検実記』(中公文庫、1989年、親本は1897年)です。 ここでいう三国とは、タイ・ラオス・ベトナムのことで、著者は僧に身をやつして、バンコクからビエンチャンをへてハノイまで、基本的に歩いて現地を観察したのです。同行者…

大局観

長澤和俊さんの『敦煌』(レグルス文庫、1974年、親本は1965年)です。 敦煌の莫高窟にあった古文書が、20世紀のはじめにどのようにして発見され、それが中国から流出していったのか、それを通してみえる当時のすがたはどのようなものであったのかを、コンパ…

書いてこそ

磯田道史さんの『天災から日本史を読みなおす』(中公新書、2014年)です。 各地の古文書や古記録から、噴火や地震や津波、高潮や土石流などの記録を探り出し、現在の状況にあてはめていくというものです。もともとは新聞連載だったので、それぞれの記述は簡…