舌禍

野上豊一郎・野上弥生子『山荘往来』(岩波書店、1995年)です。
戦時中から戦後はじめにかけて、野上弥生子が北軽井沢の山荘を拠点に生活していたころの、夫婦の手紙をまとめたものです。戦時下の物資逼迫のときに、どのように対応していたのか、戦後の激動のなかで、原稿料や印税をどのように得てゆくのかというようなことも、なまなましく記されています。最後の方では、うまれたばかりのお孫さん(いまの放送局の経営委員の方ですね)のことなど、一家の主としての身の処し方も興味深いものです。
その中で、戦時中に弥生子が警察につかまります。湯浅芳子に対して、戦争の見通しで悲観的なことを言ったのが、どういうルートかはわからないながら当局の知るところとなり、その結果警察の手をわずらわすことになったのでした。さすがに、たいしたことにはならずにすんだのですが、「迷路」のなかの、重要人物が似たようなことで警察にめをつけられ、結局は上海に渡ろうとして飛行機が墜落するという流れを思い出してしまいました。
そこまで、ひとびとは監視されていたのですね。