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『中国古典文学大系49 海上花列伝』(太田辰夫訳、平凡社、1969年)です。
原書は1892年から書かれた作品で、最初は作者、韓邦慶の個人雑誌、『海上奇書』に連載されました。当時の上海の芸者の世界を舞台にして、そこに出入りする男たちや、そこに寄生して生きるしかない女性の姿を描いた作品です。雑誌連載という点でも、上海で話されていた蘇州語で書かれたという点でも、画期的で、いわば新時代のさきがけともいうべき作品なのでしょう。
30回まで雑誌に掲載されたところで雑誌は中絶(どうも、モデルにされた人物が雑誌を買い取って破棄したとかいう話も伝わっています)し、残りを書き下ろしの形で、1894年に全64回の作品として刊行されました。日本でいうと、幸田露伴尾崎紅葉の活躍した時代ですね。
雑誌連載の部分は、当面の上海花街の風俗を描くことを中心にしているようなのですが、書き下ろしの部分は、大きな庭園(『紅楼夢』の大観園を意識したようです)に登場人物たちが集って詩文の遊び(科挙のテキストたる四書五経の文章をつかってわいせつな文章を書くという場面もあります)をしたりとか、しょせん日蔭の存在でしかない女性のつらさを描いたりとか、作者も落ち着いたふぜいで文をつづっているように読めるのです。
雑誌形態だと、日々の流れに追われてしまうということは、中国でもあるのでしょうか。