見え隠れ

河出の世界文学全集、エリアーデ(1907−1986)の「マイトレイ」(住谷春也訳、親本は1999年、原著は1933年)です。
作者の体験に基づいた話で、若い頃にインドのコルカタで出会った、ベンガルの女性との性愛体験を描いています。それはそれでいいのですが、どうも、作者の中に、インドを何か得体の知れない、エキゾティシズムの世界としてとらえているような感覚があらわれていて、二人の愛が、純粋なものに見えません。そこが、性愛の部分を興味本位にしているような印象をあたえます。26歳の作者に、そこまで要求するのは酷かもしれませんが、読んでいて、あまり気持ちのよいものではありません。

前回の補足。小説「甲乙丙丁」は、1964年春で作品世界を閉じているので、文学団体の大会での「対案」を出した人たちを、文学団体が除籍したことは、作品のなかでは描けません。除籍に賛成したのは、作中の「田村」ではなく、実際の中野重治です。

追記)窪田精さんの『文学運動のなかで』を調べなおしたら、除籍を決定した会議には、中野重治は欠席していました。とはいっても、その後の展開を考えると、除籍措置に反対の意図を言外にあらわした欠席とはいえないでしょう。