見逃すかもしれない

トマス・ピンチョン『スロー・ラーナー』(志村正雄訳、ちくま文庫、2008年、親本は1988年、原本は1984年、収録作品は1960年前後に発表されたもの)です。
どんな人だろうと思って、読んでみたのですが、1950年代後半の、アメリカのひとつの側面ではあるのだろうなという感じはします。アイゼンハウアーの8年間という時期は、それこそ、ハルバースタムの『ザ・フィフティーズ』の世界でもあるわけですが、消費生活の発展の時代ではあるわけです。けれども、ピンチョンの登場人物たちは、その生活を謳歌しているわけではありません。そこに、意味もあるのでしょう。
でも、やはり、現実に対しての作家の距離感は遠すぎて、うまく現実にコミットメントしていないようにも感じます。もし時評をやっていて、これらの作品にぶつかったら、扱わずにスルーしてしまいそうです。〈初期作品〉のこわさは、そこにあるのでしょう。