教わること

うちの近所は、梨の産地なので、今頃の季節になると、あちこちの梨畑で、花盛りになっています。最近は、ひところよりも、栽培地も減っているようで、いつの間にか宅地造成がされ、そこに人が住むようになるところも増えてはいますが、まだまだ各所に、梨畑はあります。
この季節にそれを見ていると、中野重治の『梨の花』のことを考えます。作品は、福井県の農村に育つ少年の、小学生から中学にはいるころの生活と意識を書いたものなのですが、題名の由来は、買ってもらった少年向けの雑誌に載っていた絵で、主人公が今まで身近にありながら気づかなかった、梨の花の美しさを実感するというところからきています。
少年の日々を書くことは、そんなに珍しくないでしょう。けれども、そこに、生活実感だけではすまない世界が、周りには広がっていて、ある意味「先達」から教えられなければ到達できないものが存在している、ということを主人公の少年がとらえていくところに、この作品のポイントがあるのだと思います。
それは少年の日だけのことではないでしょう。教えられなければ身につかないことが世の中には存在しているのだということを知っていることは大切なのです。知らなかったことを教えられて、認識が広がることは、喜ぶべきことだと自覚しているべきなのでしょうね。