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北博昭さんの『日中開戦』(中公新書、1994年)です。
タイトルだけをみると、日中戦争がどのようにはじまっていったかを概説した本のようにも見えますが、実際は、「事変」と称されたことによって、戦時国際法の適用を受けない状態で、どのように戦争を遂行するための法秩序をつくっていったかということの研究です。日中両国以外の国が、それぞれに対して武器などを輸出する場合の扱いはどうなるかとか、日本が行った海上封鎖の実態はどうかとか、国内では軍事機密に関してどう扱われたかなど、少しいろいろな話題を提供して、厚みよりも広がりを重視したかたちになっています。
この前、『空爆の歴史』をここで紹介しましたが、あの中にもふれられていた、「『軍事目標』以外を空爆した」相手方乗員を『処断』した「軍律法廷」について、それが日中戦争の時点では、日本軍の占領地において、抵抗活動をおこなった中国人を処罰するために使われていたということが、書かれています。弁護人もいない「法廷」ではあっても、形としてそうしたものは必要だったということです。
「裁く」というのは、なんにせよむずかしいものですね。