人のふり見て

アマルティア・セン『人間の安全保障』(東郷えりか訳、集英社新書、2006年)です。
ノーベル経済学賞といえば、破綻した理論が受賞したとかいって、ノーベルの名前がついているのに非常に評判の悪い賞ですが、この人が受賞したことは、評価していいものでしょう。大江健三郎さんとの往復書簡が、たしか、朝日新聞社から出ていたと記憶しています。(今正確なタイトルを忘れてしまいましたが)
ここでは、世紀の変わり目に行われた講演記録や、エッセイなどを編集したものです。

その中に、「民主政治」のよい面として、インドと中国を比較して、民主政治がいちおう機能しているインドが、平均寿命を伸ばしてきている割合が、中国にくらべて進んでいるのは、国民世論の監視があるからで、一党支配の中国では、不利な情報は流さないので、医療の分野が軽視されても、それを告発していくことができないからだというのです。インドでも、ケララ州がほかにくらべて優れているといっているので、『主義』の問題ではなさそうです。また、飢饉は民主政治の国では起きないともいっています。これも、世論の監視があって、飢饉を放置する政権は必然的に倒れるからだというのです。中国では「大躍進」の時期に飢饉になったではないかと、センさんはいいます。

そういうふうに言われると、日本はほんとうのところどうなのだろうと問いかけたくなります。センさんは、聖徳太子の十七条憲法を、けっこう評価しているようなのですが、それに日本人がいい気になって乗っかってはいけませんよね。日本に「飢饉」が起きる気遣いはないのか、平均寿命を伸ばすための医療・保健政策はあるのか、と考えると、少し立ち止まらなくてはいけないのかもしれません。