アーカイヴ

網野善彦さんの『古文書返却の旅』(中公新書、1999年)です。
1950年代、全国各地の漁業関係などの古文書を、研究のために借り出したのが、30年くらいもずっと借りっぱなしになっていたのを、返却していったという経緯を書いたものです。
返却の途上で、昔訪問した島が無人島になっていたり、昔と同じように、ムラの寄り合いが機能していたりと、それだけでも、戦後日本の縮図が見えるのですが、なかでも、網野さんがその後よく引き合いに出す、能登の時国家の文書研究によって、今までの農村中心史観への見直しを迫られるところなどは、考えさせるものがあります。

しかし、そうした再発見や新研究が可能になるのも、和紙に墨書という環境があってのことでしょう。最近の電子データによる文書が、はたしてどの程度後世まで残るのか。たとえば、1980年代から90年代にかけてつくった、ワープロ専用機で3.5インチフロッピィディスクに保管しているデータの再生さえ、最近はむずかしくなっています。そういう点では、今のネットの環境は、「横」のつながりをつくることには長けているのでしょうが、古文書のような「縦」の流れを作っていくことができるのかとも考えてしまいます。