2016-01-01から1年間の記事一覧

場面集

鳥居久靖訳『三侠五義』(中国古典文学大系、1970年)を、ぼちぼちと読んでいます。 というのは、この話、講談をつなぎあわせたようなもので、それぞれのエピソードが、ゆるやかにつながっているという形式になっています。それだけならば、『儒林外史』も似…

整合性

どこかの記事で見たのですが、首相は〈ロボットが答弁にたってくれればありがたい〉という趣旨の発言をしたとか。 筒井康隆さんに、ロボット記者が政治家の発言の非論理性に堪えられず爆発してしまうという作品があったのを思い出してしまいしたが、首相の答…

頭一つ

野呂邦暢『失われた兵士たち』(文春学藝ライブラリー、2015年、親本は1977年)です。 もともとは自衛隊の社内報的な雑誌に連載されたものだというのですが、有名無名の人物の手になる戦争を記録した文章を取り上げ、そこに見える日本軍のありよう、そこから…

わからなくはない

高井有一さんの『この国の空』(新潮文庫、2015年、親本は1983年)です。 1945年の初夏から8月上旬までの東京杉並区を舞台に、若い女性の生き方を描いた作品です。 1925年の丑年生まれの主人公は母親と二人暮らし、父親は中国との全面戦争が始まる前に病気で…

隠させない

川村湊さんの『戦争の谺』(白水社、2015年)です。 戦後のいろいろな事象を分析して、表にでたものと、その陰に隠れているものをあぶりだそうとしています。ヒロシマ・ナガサキをはじめとして、戦争の時代やそれをめぐる言説をみつけだしていきます。 戦争…

本音

山中恒さんの『「靖国神社」問答』(小学館文庫、2015年、親本は2003年)です。 靖国がどのようにしてつくられ、どうやって人びとを神社にまつられるのを名誉と思うようになり、現在まで影響を及ぼしているのかを、わかりやすく記述しています。山中さんも、…

それはどうだか

今度の選挙で比例区から地方区に転出するタレント議員さんが、パーティーをひらいて、そのかたが世に出るきっかけとなった学園ドラマで教師役をやった芸能人の方が呼ばれてスピーチをしたそうです。その方は、その議員さんについて、〈変な発言はしそうにな…

どんどん忘れる

相原茂さんの『雨がホワホワ』(現代書館、2001年)です。 中国語をめぐるエッセイをあつめたものです。表題の文章は、中国からの学生がバイト先で雨が降ってきた時に、中国語の擬態語を使って表現したというところのものだそうです。 学生時代は第2外国語を…

激動の経過

文京洙さんの『新・韓国現代史』(岩波新書、2015年)です。 解放以後70年の韓国の動きを、最近の情勢まで視野に入れてコンパクトにまとめています。日本との関係でも、時代によって変化があるわけですが、そこにも目配りはされています。 ただ、文化という…

プライド

佐々木一夫『青い処女地』(新日本出版社、1981年)です。 作者は鳥取県で農民運動にたずさわりながら小説を書いていた方で、この作品には作者の経験が投影されているように思えます。 時は1930年、主人公の家は自作農だったのですが、親戚の保証人になって…

百聞は

岩波文庫の『ビゴー日本素描集』(正・続)『ワーグマン日本素描集』です。(ビゴー正は1986年、続は1992年、ワーグマンは1987年、いずれも清水勲編) 幕末から明治にかけて、当時の世相や生活を絵の形にして残してくれたものです。ワーグマンは江戸の東禅寺…

三冠

本谷有希子さんが芥川賞をとりました。笙野頼子さん、鹿島田真希さんについで、3人目の三冠(芥川・三島・野間新人)受賞というわけです。 この3人、いずれも芥川賞受賞で、三冠となったわけです。そこがやはり老舗ということでしょうか。 どこかのスポーツ…

自由席

今年のセンター試験の小説は、佐多稲子「三等車」です。初出は1954年1月の『文藝』だそうです。 語り手は、仕事で東海地区へ行くようで、とりあえず名古屋まで東海道線を利用するために、12月なかばの東京駅に行き、鹿児島行きの急行列車に向かいます。語り…

認めたくない

ヴァインケ『ニュルンベルク裁判』(中公新書、板橋拓己訳、2015年、原著は2006年)です。 ドイツの戦後処理の、連合国による国際軍事法廷と、その後の裁判の状況を追った本で、原著も一般書として書かれたものだそうです。新書という形でコンパクトに事情を…

誰かがやる

島村利正『奈良飛鳥園』(新潮社、1980年)です。 奈良の古仏の写真を撮り、それをひろめた小川晴暘(1894−1960)の生涯を小説化したもので、作者自身も〈杉村〉という名前で登場します。 奈良の文化遺産が国際的に注目されるにいたったのも、彼の写真が力を…