不公平

一ノ瀬俊也さんの、『皇軍兵士の日常生活』(講談社現代新書)です。
当時の文書などを使って、軍の中のいろいろな場面での、不公平な部分などを摘出しています。学歴によって、兵卒から下士官への昇進の時間が違ってきたり、戦場にあっても、将校と兵士の食べ物に格差があったり、などいろいろな事象が述べられています。
その中で、召集された兵士への、「手当」の問題が出ています。
徴兵検査で合格して、現役で入営した場合、一定の期間を過ぎると、基本的には「除隊」となり、予備役として一般社会の中で、「待機」状態になります。そして、有事になると、いわゆる〈赤紙〉で召集され、部隊に編制されるわけです。
その間の生活保障をどうするかということが、当然問題になります。特に、既婚者の場合など、留守家族の問題が出てきます。
そのとき、いわゆる大企業では、職場に籍を残して、なおかつ「手当」を支給していたところが多かったというのです。(そういえば、霜多正次さんの年譜をみていたときに、東京市役所に就職した後、召集され、復員後、復職したという記事がありましたが、これがそのケースなのですね)
ところが、戦争が激しくなると、召集される人数も多くなり、企業側の負担も重くなっていったようなのです。この本では、企業側と軍側とで、この問題に関しての座談会が行われたことが紹介されているのですが、そのなかで、企業側は、できるだけ負担を減らしたいがために、「大企業だけがそうした手当を支給していては、自営業や農漁民のような、そうした配慮をしてもらえない人と不公平が生じるから、正直言って、もうやめたい」というようなことをいうのです。
最近の、「正社員が優遇されているのはおかしいから、非正規なみに条件をそろえよう」という意見を連想してしまいました。企業側の論理は、一貫しているのかもしれません。