敗戦国

ギュンター・グラス『玉ねぎの皮をむきながら』(依岡隆児訳、集英社、原本は2006年)です。
グラスが武装親衛隊に所属していたという「告白」が話題になった作品ですが、こうして通読してみると、1927年生まれのひとりの少年が、どのように戦時下を生きたかという記録としてよむことができると思います。日本で言えば、「昭和2年」生まれになるわけで、その世代の少年が、当時の支配体制に対して批判的であることはとてもむずかしいことにちがいありません。回想の中にも、銃をとることを拒否した少年がひとり出てきますが、彼の存在はとても突出していたことはまちがいないのです。その点では、ドイツも日本も、自分たちの子どもの頃にどのような体制のもとで育っていったのかが、人格形成に大きな意味をもつということになるのでしょう。その点では、日本人にとっても、まったく無関係な世界ではないのです。
ただ、戦後の時期になると、そうした意味ではおもしろみが若干欠けていきます。著者がSPD支持になっていったのも、鉱山でNSDAPの残党と、KPDの生き残りとの、左右にいろいろといわれて、両方とも信じられなくなったというのも、ドイツの現実だったのでしょう。戦争に負けても、平然と「ホルスト・ヴェッセル」の歌を歌っていたというのですから。