語れるもの

グラスの続きですが。
『自明のことについて』(集英社、高本研一・宮原朗訳、1970年、原本は1968年)です。『玉ねぎ』を買ったあとでみつけたのですが、グラスの政治的な発言が主に収録されています。1965年の連邦議会の選挙に際して、グラスはSPD応援のために発言します。その中に、「ヒトラーの全権賦与法に対して、議会で唯一反対したのがSPDだ」というものがあります。たしかに、KPDは、議事堂放火事件のあおりをくらって、議席がすべて剥奪されていたので、反対したくても反対できない事情におかれていたわけですし、グラスのKPDぎらいは、DDRという現実の政権に対する反発もあって、ある意味徹底しているので、まあ、こうした形で、応援する材料にするのもわかります。
それにしても、そういう形で、歴史を語るところに、ドイツの事情があるのでしょう。何せ、日本の社民党は、「満州事変に反対した」とは絶対いえないように、歴史を語ることが不可能な過去しかもっていません。反軍演説をした斎藤隆夫議員にしても、「民政党」に属していたのであって、「社会大衆党」にいたわけではないのですから。