流入と流出

『新潮』9月号の水村美苗さんの論文からの連想です。
全体の構成からいうと前半にあたるようなもので、その後全体像は単行本になるというので、途中までの部分から恣意的な展開をしてしまうのですが、日本文学に限らず、非西欧文学の世界的な広がりという面においては、あきらかに西欧語文学の流入にくらべれば不公平です。
もちろんそれは、キーンさんやサイデンステッカーさんたちの功績を無にするわけではないのですが、彼らが紹介してくれた日本文学の姿が、やはりやや偏っていることは否めないのではないでしょうか。
ノーベル賞にしても、中国語作家が高行健が最初というのは、いかにも変ですし、インドネシアのプラムディアさんはとうとう受賞できずに亡くなってしまうし、サルトルが受賞を辞退したという面の偏りもあるうえに、そうした地域的な格差もあるということは、やはり心に留めておいておかなくてはいけないのでしょう。
池澤夏樹さんの河出の世界文学全集は立派なものですが、それでもアジアは残雪とバオ・ニンだけなのですから。