学際的

榎原雅治さんの『中世の東海道をゆく』(中公新書)です。
新書という一般向けの本ではありますが、13世紀の京都から鎌倉に向かう貴族の日記を材料にしながら、当時の潮汐の状況などもふくめて、当時の景観を復元しようとしています。
遠江」の語源は、〈都から遠いところにある淡水湖〉からきているわけですが、それを傍証にしながら単純に大地震前の浜名湖が完全に淡水であったとする今までの通説に対して、文献とつきあわせて必ずしもそうとは言い切れないとするところなど、自然科学的な知見と、史料とをつきあわせるという、総合的なものになっています。
史料には、どうしても大げさな表現がつきまとうわけで、その記述を、実態とつきあわせることの大切さは、どの分野でも本来必要なことでしょう。証言記録のむずかしさはそこにあります。
それにしても、大地震のときに、伊勢のほうで津波の直前に潮が大きく引いたという記述があったり、鎌倉行きの文章のなかに、木曽川長良川流域の輪中地帯にかんする記述があったりと、日本人の記録には、貴重な証言があることは事実なので、そうした観察眼に学ぶべきものは多いのでしょう。そうした記述があってこそ、自然科学の知識と組み合わせることができるのですから。