郷愁

ソルジェニーツィン氏、死去。
今までも、何度か書きましたが、ソ氏は、「スターリン時代が科学的社会主義からの逸脱だ」と考えていたわけではなく、「科学的社会主義」自体がまちがった思想であったという立場で一貫していたわけです。
初めてソ氏の作品を読んだのは、まだソ連があった時代に、岩波文庫の短篇集(新潮文庫の『マトリョーナの家』を再編集したもの、木村浩訳、1987年刊行)を読んだのですが、そのときも、この人は社会主義そのものに批判的なのだと感じたものです。
その後、いろいろなものを読んで、それが事実だとわかったのですが、そういう意味では、彼が「ロシア」に対してあこがれのようなものを感じていたのも、わからなくはありません。スターリン体制よりも、ロマノフ王朝農奴のほうが幸福だったと、かれは考えていたようです。
ただ、彼がともかく、「イワン・デニーソヴィチの一日」を発表して、ソ連の作家同盟の一員としての資格を得たことが、彼の作品を世界が読むことを可能にしたわけですから、それがソ連崩壊の一因をなしたことは否定できないでしょう。『収容所群島』にしても、ノーベル賞をとったソ氏の作品という〈肩書〉がなければ、広く流通することはなかったでしょうから。