自己責任

論座』9月号に、浅尾大輔さんが吉本隆明さんに聞くという企画があります。なぜこの二人を組み合わせるのかはよくわかりませんが、その中で吉本さんが浅尾さんにこういいます。
「あなたはまず、職業的な作家として、人に文句を言わせないぐらいの技術を苦心して身につけなければいけません。その上で、文学以外のことができるか、という問題です」
さすがに、84歳(だったと思いますが)の年の功ですね。「一人前になるまで文句言うな」というのは、〈自己責任論〉の典型的な手法(聞く側にしてみれば、自分はまだ未熟だ→ものをいえない→そういう自分が悪い、というふうになるわけですね)なのですが、それをソフトな口当たりでさらっという。
たしか『徒然草』に、(引用しようと思ったのですが、娘に本を渡してしまったのでてもとにないのです)上手になるには下手なうちから積極的に周りから批評を受けるべきで、いきなり上手なものを出して周りからほめられようというのは無理だ、という趣旨の文章があったと思います。
もちろん、「人に文句を言わせないぐらいの技術」は大切ですが、「その上で」ではなくて、「それをやりながら」というところが大切なのです。
その点で、吉本さんの姿勢には同意できません。