段階

笠原嘉さんの『アパシー・シンドローム』(岩波現代文庫、2002年、親本は1984年)です。
1970年代あたりからの、当時の青年にみられた〈自立〉からの逃避的な傾向に関してのいろいろな症例や研究を論じた文集です。
今にして思えば、この本で扱われた時期は、まだ〈学校―就職―結婚〉という形で、青年が〈おとな〉になってゆくプロセスがそれなりに機能していた時期だろうと思います。それでも、青年期が30歳くらいまで続いていると、当時の著者は指摘します(ちなみに、当時の30歳は、いまの60歳くらいの人たちです)。〈女はクリスマスケーキ〉だということばも当時は公然と言われていた(対して男は年越しそばという言い方も一部ではありました)時代だったように思います。
でも今、そうしたきちんとした段階をふめるわかものがどのくらいいるのか、とは考えないわけにはいきません。現代の精神病理の世界には、新しい研究も開かれているのだとは思います。存在が規定する意識の変容を、どの程度みずからのものとして引き受けていくのかが、文学には問われるのでしょう。