おもいこみ

瀬川拓郎さんの『アイヌの世界』(講談社選書メチエ)です。
アイヌを交易の民としてとらえ、北海道の産物を大陸や列島にうごかすことで、生きてきた民族だととらえるのが著者の立場です。その面から考古学資料をとらえると、たとえば7世紀に列島から阿倍比羅夫がやってきてたたかった〈粛慎〉とはオホーツク文化の担い手であり、彼らが進出してきた奥尻島で戦いをして打ち破ったと解釈できるようです。そこで亡くなった能登の支配者を葬った跡と思しき遺跡も、奥尻島にあるとか。
中尊寺金色堂に象徴される、奥州藤原氏の金も、日高の産ではないかと考えられるとか、アイヌ文化の担い手の豊饒なすがたがみえてきます。無文字社会を、ついつい素朴なものとしてとらえがちなところが、われわれの中にはあるのですが、それも近代日本の〈同化政策〉に毒されてしまった考え方かもしれません。