書き直し

川上弘美さんの『神様 2011』(講談社)です。
昔の作品「神様」と、『群像』6月号に掲載した「神様 2011」とを合わせて、コンパクトな1冊に仕立てたものです。
〈くま〉と川にピクニックに行くという筋は変わらないのですが、今回の作品では、〈わたし〉は防護服を着ないで出かけるのは「あのこと」以来はじめて、ということになっています。ですから、川で会うのも、親子連れではなく、防護服を着た男性二人ですし、〈くま〉が川の水であらっていたのがペットボトルになったりします。
その書き替えに、作者の今回の「あのこと」に対する苦渋の思いがあるのはいうまでもありません。ここで、「わたし」(女性のように読めます)が、防護服を着ず、男が着ているというのも、防護服を必要とする事態を生み出した、〈おとこ社会〉への作者の批評でもあるのでしょう。
こうやって、コンパクトな1冊(帯には、「本書の印税および収益の一部は、東日本大震災の被災者への義捐金として寄付されます」とあります)のまとめ方をするのを見ると、以前ここで書いた、勝谷誠彦さんの『ディアスポラ』(文藝春秋)の出版形態は考える余地があったように思います。事故の後、列島に残り、酒の醸造や、ダムの決壊を防ぐ、というやるべきことをやる人物を描いた「水のゆくえ」だけを出すか、それとも、「ディアスポラ」との2作を収めるとしても、極端にいえば白表紙で簡易装丁にして、〈未完〉であることをみせるほうがよかったのではないかということです。勝谷さんの作品は、〈事故〉を起こしてしまう組織のあり方の、日本的な側面を書く作品があって、はじめて3部作として完結するものです。きちんとした形で出してしまうと、もうこれで終わるのだと、作者は考えていると受けとめられるようになるでしょう。それが、勝谷さんらしいのかもしれませんが。