風俗壊乱

アルベルト・モラヴィア『無関心な人びと』(河島英昭訳、岩波文庫2冊、1991年、原作は1929年)です。
ローマを舞台にして、当時の中産階級の欺瞞をあばく作品です。
主人公の青年は、自分をとりまく環境にいやけがさしています。父はなく、母は愛人の男を公然と家に入れておつきあいしている(愛し合う場面はありませんが)、姉は現実から脱却したくて、その男に身を任せる(こっちは実事ありです)。すんでいる家はその男の抵当に入っているし、電話は料金滞納で止められている。けれども、家族はパーティーにでかけたり、家には雇っている人もいる。
そんな生活の中で、主人公にも、誘惑の手が伸びます。相手は母の友人で、その愛人だった男と、かつては婚約関係にあった女性。
と、ドロドロの状態です。それだけ、当時のヨーロッパのある種の腐敗は激しかったのかもしれません。作品が発表された1929年は、すでにファシスト政権の時代です。表面的な記述ではなく、内面的な退廃に、危機を感じたのでしょうか、この作品は発禁になったのだそうです。

モラヴィアの作品は、一時期ずいぶんと日本語訳がでていたようですが、意外と今は、品切れ状態のものが多いようです。この作品も、岩波文庫では新刊書のたなには入っていないようですし。池澤版世界文学全集で『軽蔑』が出ていますが、ストーリーを構成していく力を感じる作家のようですね。