先を行く

メアリー・マッカーシーアメリカの鳥』(中野恵津子訳、河出書房新社、2009年、原著は1971年)です。
1964年から65年を舞台にして、ひとりの、父がイタリア系ユダヤ人で、母親が音楽家という、19歳の青年を主人公にした、アメリカ文化を批評した作品です。当時のアメリカは、消費文化と、「古きよきあめりか」とのせめぎあいの時代で、彼らが夏をすごす村では、お祭りに昔はみんな手作りのアイスクリームやケーキをつくって売っていたのに、大手飲料会社の資本がはいっていて、すっかり様変わりしてしまっているのです。主人公の母親は、いろいろな料理の材料や、料理作りの道具を探しても、かつては手にはいったものが入手困難になっている現実にぶつかってしまいます。
ベトナム戦争直前の、アメリカの現実とはそういうものなのでしょう。母親が、演奏旅行で行った東側のポーランドハンガリーのほうが、かえって品物が固定的に供給されていたとグチをいうところは、映画「グッバイ・レーニン」で、古いピクルスを手に入れようと苦闘する場面を思い出してしまいました。