代償

児玉花外『社会主義詩集』(日本評論社、1949年)です。
もともとは、1903年9月に、「安寧秩序を害する」という理由で発売禁止に追い込まれ(書下ろしではなく、いろいろなメディアに既発表のものを集めたのですが)た本で、その後行方不明になっていたのを、岡野他家夫が発見して、解題を書き、中野重治の序文を付して刊行されたものです。内容は、世情を批判し、労働者の立場に立とうという詩が多く、そういうところも当局からにらまれたのかもしれません。大塩平八郎を賞賛しているところもあります。
さて、せっかくの本を発禁にされた花外は、次に出した詩集に、「同情録」と題して、発禁に対する各氏の意見を募ったものを収録しています。それは、この日本評論社版『社会主義詩集』にも付録として収められているので、読むことができるのですが、内容を知らずに発禁そのこと自体への批判を述べている人が多いことに気がつきます。もともと既発表とはいっても、あまり有名なメディアではなかったようなのです。
児玉花外の名は、明治大学の校歌の作詞者として名は残っていますが、こうした側面は、ほとんど知られることなく、生涯を終えたということでした。