緊張関係

ブルガーコフ巨匠とマルガリータ』(水野忠夫訳、河出書房新社、翻訳原本は作者没後の1973年版)です。
作者は、この作品を生前発表することができなかったというのです。書いたものが、「ソビエト的」ではなかったというので、晩年は演劇関係のしごとをしながら、発表のあてもない作品を書いていたというのです。
この作品も、「巨匠」と呼ばれる作家が、ナザレのイエスの死をめぐって書いた作品が、批評家によって葬り去られたことへの仕返しが、ひとつのかぎになっています。そこに作者の、鬱屈した感情もあったのかもしれません。モスクワの町が、『悪魔』によってかき回されるというのも、当時の社会状況への批判のあらわれでもあるのでしょう。
権力との関係をどうつくっていくのかが、こうした作家たちの課題でもあるのでしょう。自分が信じていたものが崩壊したと考えて、「スターリン批判」の直後に自殺したファジェーエフのことを考えると、難しさをおぼえます。