育ち

坪内祐三さんの『東京』(太田出版)です。
1958年東京生まれ(といっても、渋谷区本町というから、第二国立劇場の近くですね)で、東京育ち(東急世田谷線の松原のあたりだそうです)の坪内さんの、成育歴と活動歴のなかの、東京のいろいろな場所を紹介したエッセイです。坪内さんは、やっぱりこうしたエッセイの分野が得意なようで、あまり、がっちりした評論を期待しないほうがいいのではないかと思います。
中学時代からよく映画を観にいったりということもあるのですし、何より、お父様が堤一族と関連があるようで、いろいろな家族の行事を東京プリンスホテルで行ったりという、ある意味恵まれた環境(と書くと、坪内さんは怒るのかもしれませんが)を生かしていて、そうした1960年代から80年代にかけての、東京をめぐる著者の思い出が、生きています。その点では、1932年生まれの小林信彦さんの著作のあとを継いで、東京の姿をあらわした本として、評価していいのではないでしょうか。
ただ、こうした本の特徴として、やはり読者自身に、共感する面がないとよくないのかもしれません。それがないと、単なる思い出話としかとられないようにも思えます。