「不肖」の息子

田村光雄さんの、『化粧する男』(民主文学館、光陽出版社発売)です。
いくつかの短編をあつめた作品集なのですが、表題作は、派遣労働の息子が、元日に仕事をいれていたのが事故で出勤できなくなって、リストラされてやはり派遣勤務をしている父親が、身代わりに勤務しようというので、若作りのために化粧をするというのが、題名の由来となっています。その仕事は、チェーン店の服飾店の、新年の福袋つくりなのです。
ほかにも、アトピーに苦しむ息子を描いた作品もあり、老境に至ろうとする父親の目から、今の若者の苦しんでいる状態を見つめている作品だということができます。親が子をみる視点というのは、どうしても厳しくなりがちなものですが、作者は、冷静に、今の若者をとりまく現実をみようとしています。
「いまどきの若いもの」という、紋切り型の批判がありますが、そうした類型化を排しようという作者の視点は、貴重なものでしょう。