体質

草鹿外吉『灰色の海』(新日本出版社、1982年)です。
著者は、海軍軍人の家に生まれ、自らも1945年に海軍兵学校に入学しました。そのときの体験をもとに書いた小説で、作品の舞台は1945年5月から8月までの時間です。
主人公は、親の影響で海軍にあこがれ、海兵に入学するのですが、行動がとろいために、「修正」という名の鉄拳制裁をよく受けます。そうした主人公が、江田島で、日本海軍の崩壊を目撃するのです。
ポツダム宣言受諾のあと、兵学校の綱紀はゆるみ、物資の私物化は当たり前のようになります。上下関係も崩壊し、今まで将来の将校として、形としては丁重にあつかわれてきた兵学校生徒も、単なる若造(主人公は中学4年修了で兵学校にはいるのですから、満年齢では17歳です)として、老兵たちから軽く見られます。

そうした場面がすべてではないのですが、こんなふうにひとつ崩れるとぐだぐたになる日本軍隊のいい加減さは、今回の名古屋高裁判決に対して、どこかの指揮官が「関係ねぇ」と揶揄したところまで続いているようです。法治国家の公務員が、司法判断を揶揄するような状況では、かれらはいったい何を守るというのでしょう。国家の統治形態を否定する指揮官を処分一つできないようでは、自衛隊という組織は、国家すらまもる意志のない集団といわざるを得ません。

別件ですが、この本は古本屋で買ったのですが、最後のほうで落丁がありました。最初に買った人は気がつかなかったのでしょうか。おかげで、最終回の部分は、『民主文学』の初出を探し出して読むことになったのです。