見えないもの

兵藤裕己さんの『琵琶法師』(岩波新書、2009年)です。
平家の物語を語る琵琶法師集団の流れを追ったもので、足利将軍家の保護の下に、『平家』を源氏の興隆につながる話として、将軍家の正統性を語るものにしていったのだというのです。
そうした、一つの政権の勃興から消滅、次の政権への胎動、という流れの中に、いろいろなものがはいりこみ、聞く人たちにとっては、ある種の百科事典的な要素もあったのかもしれません。当時の人は、みずから『古事記』や『日本書紀』をひもとくというのはほんの一握りの人たちで、多くの人は、さまざまな語りをとおして、「歴史」を認識していったのでしょう。そうした世界にも、秩序はあるのだと、思わなければなりません。今のわたしたちだって、画面越しにいろいろなものを観て、あたかも自分が知っているかのようにふるまうのですから。