混沌

ロシアの作家、ピリニャーク(1894-1938)の『機械と狼』(川端香男里、工藤正広訳、未知谷、2010年、原本は1925年)です。
ピリニャークといえば、宮本百合子の小説『道標』のなかで、日本の女性作家、佐々伸子をお姫様だっこした「ポリニャーク」のモデルとされている人です。日本びいきで、秋田雨雀(『道標』では秋山宇一のモデル)との交友も深かったと伝えられています。そのために、最後は日本のスパイとの汚名を着せられて処刑されたとか。
作品そのものは、1920年代初期のロシアの農村の状況を描いたものですが、いろいろなデータやエピソードを断片的につなぎあわせて作品をつくっています。それは、確かに当時のロシアの反映でもあるのでしょう。シャガールが、幻想的な絵を描いたように。
ただ、もちろんそれだけで当時のロシアを語るわけにはいかないので、そうした〈自由〉の開花と、それを支えたリアリズムとの関係を、きちんと見るべきでしょう。〈社会主義リアリズム〉ということばが、まだ現れる前の、時期であればなおさらのことです。
こうして、再刊されたことで、ピリニャークの日本紀行も、簡単に読めるといいのですが。