自立

小野才八郎さんの『イタコ無明』(審美社、1984年)です。
小野さんは太宰治の弟子で、今でも桜桃忌にはかかわりをもっていらっしゃるとか聞いています。
この作品集は、作者と等身大の主人公が、幼いころに生き別れた母や妹の生きた証をもとめてゆかりある人や場所をたずねていく連作小説となっています。主人公の母親は、夫と別れたあと、失明して、イタコという占いなどをして生きていったというのです。ただ、当時(といっても、昭和のはじめごろですが)は、イタコという職業が卑賤視されていたので、母のあとをたどる主人公の行程も、なかなかの困難をともないますし、またその過程で、知らなかったことを知らされるということにもなります。
女性がひとりの人間として職業をもっていきてゆくことの困難さは、現在でもあるわけですが、その昔は、もっと厳しいものがあったことでしょう。イタコになるためにも、厳しい修業が必要なわけですし、そうして日々の糧を得ることができても、それが一般的な幸福とは簡単にむすびつかない。日常の生活のなかからこぼれてしまうと、そういう形でしか「敗者復活」ができないというのも、今とつながるものがあるのでしょう。