したたかさ

木村浩ソルジェニーツィンの眼』(文藝春秋、1992年)です。
木村さんは、『収容所群島』を日本語に翻訳したためか、しばらくの間ソ連当局からビザがおりず、ロシアへの入国を阻まれていたとかいうことで、そういう時代の文章から、ソ連が崩壊するあたりのころの文章なども集めてこの本は編まれています。1982年にソ氏がお忍びで来日したときにも、木村さんが随行していたとかいうのです。
ソ氏は、ソビエト体制を、とにもかくにも生き延びることに成功したわけです。彼は、たとえば『ソ連における少数意見』(岩波新書、1978年訳)を書いたロイ・メドヴェージェフとはちがって、「社会主義」の思想そのものへの批判をずっともっていたわけで、その点では、ソビエトロシアの失敗は、社会主義からの逸脱ではなくて、「社会主義だから」失敗したのだという立場を鮮明にしています。
もちろん、彼がそういう立場であることは、同時代の人は承知していたようで、この本には木村さんとエフトゥシェンコとの対談も収められていますが、その中でも、エ氏は、ソ氏の1960年代の行動のなかには批判的にみたほうがいいものがあることを示唆しています。生き延びるというのは、大変なことです。