統一性

戸石泰一『五日市街道』(新日本出版社、1980年)です。
著者は1919年に仙台に生まれ、1978年に亡くなったので、この本そのものが遺著というかたちになっています。内容は自伝的な小説を集めたものなのですが、そのなかで異色のものが、1971年の「「おはよう」」というものです。これは、高校の教師である主人公が、いろいろな妨害にあいながらも「おはよう」というタイトルの個人職場新聞をだすという話なのですが、ほかのこの本の中の作品が、みずからの少年期の性欲に関する回想であったり、戦後教師になり始めのころに、定時制の高校でのいろいろな鬱屈であったりと、どちらかといえば重いトーンのものなのに、何かこの「「おはよう」」だけは違うような感じがします。
本の成り立ちが成り立ちなので、ページ数の問題などあったのでしょうが、本にまとめるということのもつ意味も考えさせられます。
また、「待ち続ける「兵補」」という作品では、インドネシア人で日本軍の「兵補」として行動する少年を通して、当時の日本軍の精神構造を批判したもので、「八紘一宇」の精神を信じ込んでしまう彼の姿は、痛ましさを感じさせます。