河口の街で

佐藤洋二郎さんの『恋人』(講談社)です。
3月末に出た書き下ろし作品なのですが、小説家の主人公が、30年ぶりに逢いたい人に函館で逢おうと試みる話です。
メインストーリーはお約束の流れなので、あまりどうということはないのですが、浦安の街で、工事現場に働く主人公の姿に、佐藤さんの初期作品の世界を思い出しました。主人公は、工事現場で働きながら小説を書こうとするのですが、そのころ書いた恋愛ものはことごとくはねられ、そのときの自分と周囲の労働者たちを書いたもので認められるという展開になっています。
作者みずからの体験も反映しているのでしょうが、工事が完成するとそうした現場があったことも表面からは消えてしまうわけで、そうした世界を佐藤さんはつかんでいたのでした。