着実さ

吉田晶さんの『現代と古代史学』(校倉書房1984年)と、近藤義郎さんの『農民と耳飾り』(青木書店、1983年)をまとめて。
吉田さんは歴史学、近藤さんは考古学と、分野はそれぞれなのですが、岡山の地で研究と後進の指導に当たられた方です。1950年代前半の「国民的歴史学」の時代に、月の輪古墳の発掘にたずさわっていたそうです。
前に書いたと思いますが、吉田さんは、1975年の『岩波講座日本歴史』の古代の巻に、古代国家の成立に関する論文を書いています。その中で、6世紀前半におきた「磐井の乱」を材料にして、これが国家形成にかかわる大きな対決であったと意味づけて、その観点から、古田武彦さんの九州王朝説を批判しています(きちんと注に『失われた九州王朝』という書名も明記しています)。
けれども、古田さんの本には、吉田さんのこの論文は出てきません(全くかどうかは保証できませんが、とりあえず、古田さんが1984年から85年にかけて出した、『古代は輝いていた』より前にはなかったと思います)。
こうした、学問としての手堅さを考えることも大切なのでしょう。近藤さんが、発掘における心構えについて述べているのも、同様で、ついつい目立つ「遺物」に注目しがちな動きへの、注意にもなっています。
戦後歴史学というと、けっこう最近は話題になりませんが、まだまだきちんと理解すべきことは多いのでしょう。