吸収力

ジョゼフ・ニーダム『文明の滴定』(橋本敬造訳、法政大学出版局、1974年、原著は1969年)です。
ニーダム氏はご存知の方も多いでしょうが、中国の科学文明の研究に生涯をささげ、ヨーロッパにおけるこの分野では第一人者といわれているようです。
この本は、その過程で折に触れて書かれた論文や講演を収録したもので、中国社会と科学との関係についての考察がおこなわれています。
火薬にせよ、羅針盤にせよ、活版印刷も中国で開発されたものなわけですが、そうしたものが、ヨーロッパにおいては、封建制社会をうちやぶって資本主義社会をつくりだすためのさまざまな力になったにもかかわらず、なぜ中国の社会では、そうした発明が社会の推進力にならなかったのかというところに、著者の関心はあります。そういえば、魯迅もわかいころに、「羅針盤を西洋では大航海時代としてあたらしい貿易や領土の獲得につかっていったのに、中国では風水盤として墓の占いにしか使っていない」という趣旨のことを書いていたと思いましたが、そうしたように、せっかくの発明を、社会の変革には使わないというところに、中国の不思議さもあるのかもしれません。
ある意味では、〈社会主義〉の思想も、そうした中国社会を深いところから本当に変革していけるのかということも、昨今の状況をみていると、問われているのではないかとも思います。