心から

永井潔さんが、光陽出版社から、たてつづけに2冊本を出しました。『戦後文化運動・一つの軌跡』『ごまめ(魚ヘンに〈単〉の旧字体)の呟き その二』です。永井さんの短い文章を集めたもので、戦後まもなくのころから、最近のものまで、幅広く収録されています。
戦後の文化運動における、創造団体と鑑賞団体との関係や、専門家と文化工作隊の問題など、今の文化運動にとっても重要な指摘もありますが、藤田嗣治の戦争協力に関しての永井さんの意見が、示唆に富みます。
藤田は、自分が戦時中に戦争の絵を描いたことを、「国民として当然のことをしたのだ」といっているのだそうです。これは、裏を返せば、「そういうことをしない人間は非国民だ」ということになると、永井さんは指摘します。獄死した友人のことを考えると、とてもそういう発言をして恥じない藤田を許すわけにはいかないと、永井さんはいいます。
たしかに、この藤田のことばには反省はありません。きっと、戦争の絵を描くこと、そうした注文がくることを、内心名誉に思っていたのかもしれません。
「戦争」に限らず、「注文」がくるということの、ある意味での恐さを、いつも考えておくことも必要なのでしょう。宮本百合子が、「列のこころ」という、ある意味では時勢批判のするどい文章を、『大陸』という時局雑誌に発表できたような、いい意味でのミスマッチは、そんなにあるものではないのでしょうから。

ふたりの「ともひろ」さんのことをと、前に書きましたが、『週刊朝日』に赤木のともひろさんが、書いています。かつての『Mの時代』(太田出版、1989年)は、今回の死刑を執行されたかれの事件を契機にしてつくられたものですが、そうしたものが、今回どのように出てくるのかは、注意してみていきたいと思います。