損をする側

津上忠さんの『不戦病状録抄』(本の泉社)です。
津上さんの小説作品と、最初の戯曲「乞食(かんじん)の歌」などの戯曲、それとエッセイ「続・のべつ幕なし」などを一冊に収めた、ミニ選集というおもむきです。
演劇というのは、決まった時間に、決まった場所で鑑賞するものなので、なかなかこちらの思い通りにはなりません。また、小説とちがって、逆戻りも、中断もありません。そういうなかで、世界をつくっていくところに、演劇のおもしろさも難しさもあるのだと思います。
「乞食の歌」は、秀吉の唐入りに動員される若者とその周辺を描いて、いくさが人びとに与える影響を考えさせるものになっています。昨日の、大坂夏の陣屏風ではありませんが、大きないくさのありようを通して、庶民にとっての戦争の意味を考えさせます。
この前のいくさでも、それ以前から、日本の海外進出は、まわりまわって国民に利益を与えるものだという宣伝がされていました。そうした考えに、表題作「不戦病状録抄」の主人公も最初は囚われています。その彼が、病を得て、平戸で療養中に、社会主義の書物に触れることで、戦争の意味を考え、新しい時代へと踏み出していくのです。それはきっと、作者の生き方を反映させたものなのでしょう。
そう考えると、戦争によって、今までの社会格差が解消されるかもしれないと考えることは、果たしてうまくいくのでしょうか。