何者でもない

香山リカさんの『ポケットは80年代がいっぱい』(バジリコ)です。
香山さんは、私と同い年なので、彼女が、どのように80年代初頭を生きていたのかということは、興味がありました。香山さんは、医学生ということもあって、大学に6年間かよっていたわけです。それも一浪しているようなので、1986年の春まで、学生の立場にいたようです。
ちょうどそのころ、わたしは1983年に大学を出て、ともかく就職して、東京から川をへだてた隣県に、職場も住所もおき、月に一二度、東京へ出て、学生時代の仲間と研究会をもっていました。今をときめく近代文学の研究者の人とか、のちにちくま新書からイスラム関係の本を出している人とかがいて、そういう人たちの中にいると、自分もそういう方面で、何がしかの「仕事」ができるのではないかと、思っていました。松崎晴夫さんから声がかかって、のちに『女子中学生の世界』(大月書店)という本にまとめられるプロジェクトに参加して、熱海で合宿したり、本ができたときには渋谷のロシア料理店で打ち上げをしたり、そうしたこともありました。そんな中では、「ニューアカ」の人たちの動向も話題になっていたように記憶しています。
そうした記憶を呼び起こしてくれるような、80年代前半の香山さんの状態が、ここにはあります。学生であったからできたことなのでしょうが、ジャーナリズムの世界の端っこにいた、香山さんの当時の姿は、いかにも「青春」といってよいでしょう。巻末の中沢新一さんとの対談でいわれているように、あの時代が、それこそ「脱構築」とかいって、何でも壊していって、そのあと何も残さなかった時代だったとしても、その時代の空気を呼吸していたことが、どこかで今につながっているのではないかとも思うのです。