適性

林芙美子『風琴と魚の町・清貧の書』(新潮文庫、改版2007年)です。
『放浪記』以後の戦前の作品を集めたもので、まだ中国戦線へと行く前の、穏やかな時代の作品を集めているのですが、そうした、社会全体ががさがさする以前の作品ということもあって、書かれている世界は貧乏なものであっても、そこには明るさが感じられます。前に「放浪記」を読んだときには、あまり感心しなかったのですが、この作品集になると、「上達」したのかとも思います。
そういう点では、作者は、自分を表現する方法をうまく見つけ出したということになるのでしょうが、それがどうして、「北岸部隊」になっていくのか、それを乗り越えて戦後の「浮雲」になるのかと思うと、この作家はまだまだ考えることがありそうです。