2013-01-01から1年間の記事一覧

残っていない

本の話ではなく、周辺のことですが。 高校時代から、実は買った本を帳簿につけています。M社のルーズリーフで、単語帳のかたちをしているのがあって、それだと1ページに見出しも含めて30冊(両面で60冊分)記入できるので、けっこう重宝して使っていました…

残っていた

ノーベル賞はアリス・マンローさんだそうです。 たしか、以前彼女の『イラクサ』(新潮クレスト・ブックス)をここでとりあげたことがあったと思います。短編で、いろいろな人生の側面を切り取るところに、すごみを感じたような記憶があります。 こういう人…

未決算

趙景達さんの『近代朝鮮と日本』(岩波新書、2012年)です。 19世紀から韓国併合までの歴史を書いているのですが、やはり、明治期の日本が、朝鮮や中国に対して抱いていた侮蔑的な感覚について、もう少し日本人は考えなければならないのではないかとも思うの…

きっかけ

鷲巣力さんの『「加藤周一」という生き方』(筑摩選書、2012年)と海老坂武さんの『加藤周一』(岩波新書)です。お二方とも、その人なりのアプローチをしていますが、どちらも、加藤の仕事の中で、『三題噺』から『羊の歌』にかかるあたりが重要な意味をも…

回復過程

『福永武彦新生日記』(新潮社、2012年)です。 1949年と、1951年から53年にかけての福永の日記が、はじめて翻刻されたということです。当時、福永は清瀬の療養所にいたわけで、そこでの生活や、退所後の職をどのように得るのかの心配事が、文学への探求のあ…

交錯

山崎一穎さんの『森鴎外 国家と作家の狭間で』(新日本出版社、2012年)と、加藤悌三さんの『石川啄木論』(新樹社、1986年)です。 作家と宮仕えとを両立させた鴎外と、生活者としてはどうかと思う啄木とは、ある意味対照的な存在なのかもしれません。にも…

クリスマスケーキ

新雅史さんの『「東洋の魔女」論』(イースト新書)です。 日紡貝塚チームがオリンピックで金メダルをとるまでの経過を軸に、紡績工場における企業スポーツが、レクリエーションからスポーツへと変貌していく過程を追っています。 貝塚工場では、選手たちも…

断章

『新解マルクスの言葉』ですが、けっこうおもしろく読めました。浅尾さんが小説家だったことが、こういうときには幸いしたのでしょう。評論家ならば、どうしても引用した文章が、マルクス全体の中で、どのような位置にあるのかを語らずにはいられなくなるの…

方向

玄侑宗久さんの『光の山』(新潮社)です。 ここに収められた作品には、「あぶないといわれているフクシマのどこかよりも放射線量の高い地域は西日本にもある」という玄侑さんの日頃の主張が反映しています。 CTスキャンを一回浴びたときの放射線量が高いの…

地道に

尾西康充さんの『小林多喜二の思想と文学』(大月書店)です。 どちらかといえば、地味な論文を集めているのですが、「不在地主」のモデルになった土地では、今は必ずしも作品に描かれたような階級的なたたかいとは思われてなかったことを論証したり、多喜二…

こんなところにも

早乙女勝元さんの『私の東京平和散歩』(新日本出版社)です。 東京下町を中心に、戦争の惨禍をつたえるさまざまな遺跡遺構などをさぐったエッセイです。『東京新聞』に連載されたものに手を加えたのだそうです。 東京は1944年から45年にかけて、大規模な空…

すっきり

池井戸潤さんの〈半沢直樹〉ものの、3作品を読んでみたのですが、3つめの『ロスジェネの逆襲』(ダイヤモンド社、2012年)になると、少し飽きてきました。ここででてくる〈ロスジェネ世代〉といっても、証券会社の第一線で働いているのですから、かつて浅尾…

時代遅れ

仕事の都合で、エクセルやワードの2010年版を導入しつつあるのですが、エクセルのセルの塗りつぶしの仕様が、2003年までの版とまるっきりちがっているので、実は戸惑っています。2003年版で、塗りつぶしのポイントを右クリックすると選択できる色が、2010年…

不親切

浅尾大輔さんの『新解マルクスの言葉』(バジリコ)を入手しました。 内容については今後としますが、体裁のことを少し。マルクスのことばを取り上げ、それに浅尾さんが1ページでコメントをつけるという形の本です。ですから、その取り上げたことばが、どこ…

同時進行

エレンブルグ『パリ陥落』(工藤精一郎訳、新潮文庫全3冊、1961年)です。 むかしの文庫本は不親切で、原本がいつ刊行されたかという基本的なことが書かれていないのですが、西洋の作品に多い文末の執筆年月によれば、1940年の8月から1941年の7月までの執筆…

生活のなか

NHKブックスから1980年ごろに出ていた『歴史の町なみ』のシリーズ全5冊です。 北海道から沖縄まで、当時あった歴史的な景観の町について、各地の保存修景計画研究会のかたがたが、現状と保存のための提言とをまとめています。 この時期には、まだ古い生活の…

虚におく

「あまちゃん」のこの2日間について、少し。 大地震が起きて、アキたちのコンサートは中止になり、映画も公開打ち切り、そういうなかで、鉄道は少しずつ運転を再開するという流れになります。 もちろん、かつての朝ドラが、戦争の時代を乗り越える主人公たち…

適応

暑さなどが「異常」のレベルだということです。 これだけ列島が暑くなると、それまでの気候風土に基盤をおく文化が、変わっていくのではないかと思います。現に、サンマの南下が遅れているということらしいので、それだけ食べ物の旬も変わることが考えられま…

新たな視点

佐多稲子に『重き流れに』(講談社、1970年)という作品があります。その後講談社文庫(全2冊、1976年)に収められました。 満洲ハルビンに赴任したある日本人家族をモデルにして、植民地時代の日本が何をしたのかということと、夫婦の関係とは何かを問いか…

環境を生かす

「風立ちぬ」をもう少し。 戦前の社会には、格差があったことはいうまでもありません。軽井沢で避暑ができる里見家のありようは、恵まれたものであることはすぐにわかります。二郎の実家にしても、二郎が大学に行け、妹が医者になれるだけのゆとりがあるので…

仕事を選ぶ

映画『風立ちぬ』から少し。 主人公の二郎は、飛行機乗りにはなれません。最初の夢の中で、近眼の自分には無理だという趣旨のことをいっています。けれども、当時の日本では、飛行機に関する需要は軍事しかありませんから、二郎自身が空を飛ぶ場面は、赤城か…

また訃報

森浩一さんにつづいて、谷川健一さんも亡くなられたとか。 日本の文化を、残っている民俗や地名などによって考えようとした方ですから、考古学の森さんと、相補うような感覚でいたのですが、お二方とも鬼籍に入られたとは、時代の変わり目ともなるのでしょう…

どっちを向く

原太郎『花伝書考』(未来社、1983年)です。 世阿弥の『花伝書』(風姿花伝)を。わらび座で講義したときのものをまとめたのだそうです。 観世の猿楽能が、民衆の生活の中から出てきたものであって、それが将軍や公卿のような上層階級の鑑賞に堪えうるもの…

へだたり

岩波文庫の『日本近代短篇小説選』(全6冊、2012年から13年)を、年代順に読んでいます。明治篇の最初は、文語文もあるので、旧かなづかいのままですが、明治篇の2冊目からは現代かなづかいに直しているとか、明治・大正篇には注解があるとか、時代の変わり…

用意周到

14日の夜に放映されたNHKの〈従軍作家〉を扱った番組ですが、火野葦平に焦点をあてるというところで、戦後のことなど注文もなくはないのですが、大東亜文学者会議で声明をよみあげる横光利一の映像など、けっこう努力してつくった番組だとは思いました。 大…

そろったところで

川端康成『舞姫の暦』(毎日新聞社、1979年)です。 川端没後、未刊作品を刊行したものです。初出は1935年に、新聞に連載された作品です。 地方の温泉場に成長した少女、弓子が新鋭の舞踊評論家の竹友に才能を見いだされ、上京することになります。弓子には…

情があるから

『日本近代短篇小説選』(岩波文庫)の中から、明治篇1(2012年)です。 坪内逍遥(1889年)から広津柳浪(1902年)までの作品が収録されています。日本の近代小説が、社会のさまざまなゆがみを直視し、そこをえぐりだす作品を作り上げてきたことがわかる、…

最新事情

『東日本大震災 復興支援地図』(昭文社、2011年)です。 ちょっとお休みをいただいて、つれあいの短大時代からの友人がいる岩手県の山田町まで行ってきました。ふたりとも車はないので、すべて公共交通機関を使って動きます。最近は、どこのバス会社も、HP…

つながる

風見梢太郎さんの『神の与え給いし時間』(ケイ・アイ・メディア)です。 認知症を患った継父との最期の時間をともにする主人公の思いを描いています。そのリアルな描写にも、考えるところもあるのですが、そこを通して人間のつながりの新しい関係を作者はみ…

その気になる

大野左紀子さんの『アーティスト症候群』(河出文庫、2011年、親本は2008年)です。 誰でもアーティストと名乗れば、何でもできるような風潮に関して、いろいろな事象を取り上げています。 昔から、旦那芸というものはありますから、本業とはいえなくとも、…