どっちを向く

原太郎『花伝書考』(未来社、1983年)です。
世阿弥の『花伝書』(風姿花伝)を。わらび座で講義したときのものをまとめたのだそうです。
観世の猿楽能が、民衆の生活の中から出てきたものであって、それが将軍や公卿のような上層階級の鑑賞に堪えうるものになっていくときに、得たものと失ったものを考察します。民衆の当時の鑑賞力に依拠するところからはじまりながらも、流派として生き残ってゆくために、上層の人びとの庇護を受けるようになるなかで、芸術の方向性も変わってゆくのではないかという問題提起は、わらび座という劇団にとっても他人事ではないでしょう。現代の資本主義社会の中で、民衆に依拠した芸術がどのように生きてゆくのかということにもつながってくる問題です。いまは、広津和郎川端康成が、文芸時評のなかでプロレタリア文学の作品を躊躇なくとりあげたような、素朴な時代ではないだけに、考えなければならないことは大きいようです。